言葉の大切さを痛感しています。コミュニケーションが言葉を発するところから始まり,ピンと張った赤い糸で論理が紡がれるように,人と人を結びつける役割を果たすと考えるからです。世の中に,「丁寧に説明します」が横行し,「攻めの」が頻出する風潮には,その意味するところ,じっくりと考えるところが強く求められます。
『丁寧に説明』という枕詞だけが並べられ,中身のない政策が打たれていく現状に目を向けるべきだと言っても言い過ぎではないでしょう。結論を押し付ける筋道を『説明』と言い,内容を噛み砕くことなく『総合的に』『一般的に』と称して『丁寧』に中身の無さが説かれました。説明された私は,お陰で理解が進み,国の統治に係る原則に違反していることが見抜けました。
『マイナンバー制度』は漏洩対策と相俟った,おどろおどろしい幕開けとも言えます。個人のデータに結びつく番号,個人情報流出と不正利用をキーとした取扱いの重大さが認識されているためです。しかし,その中身は『社会保障・税番号』法の対象領域であることを踏み外してはなりません。これが十分に説明されてこそ,一つでも詐欺被害が防げるのです。
『攻めのIT』の浸透には,IT部門がITを考えることの終焉が求められます。IBMの止まらぬ減収が報じられた対称な位置にアマゾン,GEなどが新たな競合として台頭しています(10/27日経新聞)。モノづくりの考え方が変わり,ITと戦略を結び付けるためにはすべての人がITを考え,経営トップが自分の言葉で語り出して『攻めのIT』経営を成就できるのではないでしょうか。日産自動車は,インテルをお手本にして社内向けのIT白書を作成しています(10/27 日経新聞・経産省共催シンポジウム「攻めの時代のIT活用2015」聴講)。全社内でITを活用し,企業にとってのITがバックオフィスの仕組みである状況から脱皮すべきとの取組みに思えます。
『攻めの』に対照させて「守りの」を展開させた論証が気掛かりですが,新たな変革に邁進する意味からは,「JIS Q 27014:2015(ISO/IEC 27014:2013) 情報技術-セキュリティ技術-情報セキュリティガバナンス(平成27年7月21日制定)」に着目してみます。情報セキュリティガバナンスにどのような意味があるか,誰が,何をするためのものかを探ってみると,目的には,戦略の整合,価値提供と,ここにも説明責任を加えた三つが掲げられています。情報セキュリティガバナンスという聊か難解な言葉は,「期待される結果」とする次の四つから,何が求められるか,そもそも情報セキュリティガバナンスとは何かを推しはかることができます。つまり,情報セキュリティについて,状況に関する経営陣の見直し,情報リスクに関する意思決定,投資,コンプライアンスの遵守の四つを結果の軸にして,経営者と経営活動を律することが求められています。社内向けIT白書に通じるところ,経営トップの語り口に嘘がないよう見つめるところは「守り」の変貌といえます。
なぜ,言葉の力を信じるのか,中国の女性詩人・ユイシウホウの詩「中国の大半を通り抜けてあなたを寝に行く」が報じられ,改めて心打たれたからです(7/24朝日新聞)。「あなたを寝に行く」とは性交を意味し,農村に住む脳性まひの女性が真実や本音を理論でなく感覚で語ることが,政治に抑えられる中国社会に衝撃を与えたと評されています。
語り続け,コミュニケーションを成立させてこそ,新たな変革が実行できる,お互いが影響し合えると信じて疑わないのです。
このコラムを書き終えようとしていると,ニュースに流れる,新上場のセレモニーで東証の金を鳴らす日本郵政の社長を見て,妻が「あれ,この人 東芝の時(!?)に顔見たよ,大丈夫?」という。私からは返す言葉も出て来ませんでした。 山本